
神さまがくれた漢字たち
参考書籍
理論社 http://www.rironsha.co.jp/
神様がくれた漢字たち
白川 静 監修
山本 史也 著 |

紙さまがくれた漢字たち 第一章より抜粋
文字は、人々がその時代の社会や生活の切実な求めに応じて、年月を費やし、心を尽くし、工夫を凝らして、つくりあげたものです。漢字とてそうです。のちとくに漢字は、しだいにその形を整え、数を増し、ついにはそれら一字一字が強いつながりを保ちながら、その壮観な世界を築いてゆくのです。
その漢字の世界は、あるいは星座の世界にたとえられるのかも知れません。星々は、それ自体、一つずつの石の塊にすぎません。もともとはどのようなつながりもなく、ただ別々に空に散らばって浮かんでいただけの星々は、「神話」や「物語」のうちに収められ、互いに結びあわされて、やっと一つの小世界を構成します。
そしてこの一つずつの小世界には、それぞれにふさわしい呼び名が与えられました。それが星座です。夜ごとに紡がれる星々の「物語」は、またその星座と星座とをうつくしくつなぎ、ここに星座の「神話」が形成されます。このとき、星々ははじめて生命を注がれ、あたかも自ら発光するものでもあるかのように、その有機的な世界を皎々と夜の空にひらきはじめるのです。
漢字の世界はといえば、もう生まれた当初から、その一字一字は互いに緊密に調和して、それ自体で、整然とした世界を構成していたのです。その成立
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のときにしてすでに漢字の世界は、「物語」られるものとしての宿命を負っていたともいえます。
その、星座にもたとえられる漢字の世界は、おおよそ三三〇〇年前、中国では、殷という王朝が最も安定した時期、紀元前一三〇〇年ころにつくられたものとされます。じつは、それ以前の「夏」と呼ばれる時代にも、たとえば陶器に描かれた、数字や文字らしき模様が見られなくもないのですが、もとより、それは文章を形づくるはたらきをもたず、またほかの文字らしきものとも結合することのない、いわばひとりぽっちの符号でしかありません。それはまだ文字といえないのではないかと思います。漢字は、漢字の世界に属してはじめて、その文字としての生命をもつからです。
星座は、宇宙に生まれた無数の星々の壮大な集合といってよいのですが、それにくらべると、生まれた当初の漢字の世界は、せいぜい一万字にも満たぬ文字から成り立つ微小な世界にすぎません。たしかに微小な世界ではあるのですが、しかし、その世界はなにしろ人々の長期にわたる努力によって結実した世界なのですから、いきおいその一字一字の漢字には、中国古代の人々の祈りや思い、また信仰や認識のあとが深々と刻印されているはずなのです。 |